ダイナミックプライシングの活用による余剰食品プラットフォームでの食品ロス削減効果の実証実験結果について~在庫回転率・粗利率の向上を両立 納入業者の食品ロスの実態調査も実施~
株式会社日本総合研究所(以下「日本総研」)および株式会社クラダシ(以下「クラダシ」)は、ダイナミックプライシングの導入による売り切り促進の効果を検証する実証実験(以下「本実証実験」)を、ソーシャルグッドマーケット「Kuradashi(注1)」において行いました。また、本実証実験に先立ち、Kuradashiへの出品経験のある事業者を対象に、 食品ロスの発生要因や削減への取り組みについてのアンケート調査(以下「本アンケート調査」)を実施しましたので、その結果と併せて発表します。
本実証実験は、経済産業省委託事業「令和4年度 流通・物流の効率化・付加価値創出に係る基盤構築事業(IoT技術を活用したサプライチェーンの効率化及び食品ロス削減の事例創出)」(注2)に採択され、2022年11月1日(火)から2023年1月31日(火)の期間で実施しました。
■背景
国内で年間522万トン(令和2年度)が発生している食品ロスのうち、企業等が排出する事業系の食品ロスは約半分の275万トンに上ります(注3)。2015年度以降、事業系の食品ロス量は減少し続けてはいるものの、2030年にSDGsを達成させるには食品ロス量の一層の削減が必要です。多くの食品関連事業者では、食品ロスの削減を図るために、フードサプライチェーン(以下「FSC」)の効率化を加速させており、例えば、AIを使った需要予測による需給最適化など、IoT技術も積極的に活用されています。
そうした中、近年では、納品・販売期限切れ商品のほか規格外品やパッケージ変更による終売商品といった、従来のFSCでは廃棄となってしまう食品(以下「余剰食品」)を販売するプラットフォームサービス(以下「余剰食品プラットフォーム」)が注目を集めるようになっています。しかし、余剰食品プラットフォームの活用はまだ始まったばかりであり、余剰食品の多くが廃棄に回されるのが実情です。今後は、余剰食品プラットフォームによる取引を拡大させることが、食品ロスを削減させるために非常に重要と考えられます。
■本アンケート調査について
本アンケート調査では、食品ロスの発生要因別の発生率および発生量、食品ロス削減に向けた取り組み別の実施率および削減効果についての実態把握を行いました。
<本アンケート調査概要>
アンケート対象者: Kuradashiへの出品経験のある事業者
対象業種: 食品製造業、飲料製造業、卸売業、小売業、畜産業、農業等
回答者数:127社
実施期間:2022年10月17日(月)~2022年11月18日(金)
実施方式:ウェブアンケート
<本アンケート調査結果>
①食品ロスの発生要因
食品ロスの種類は、ビジネスの在り方の見直しや処分方法の工夫など、食品ロスの削減が可能な方法という観点から分類することができます。本調査では、大きく3種類に分類しました(図1)。
最多の46.3%を占めたのは、「商慣習の見直しとFSCの効率化が求められる食品ロス」で、納品・販売期限切れ商品や売れ残り商品などが該当します。3分の1ルールといった商慣習を官民連携で見直したり、IoT技術などを活用した高度な需給予測による効率的なサプライチェーンを導入したりすることで削減が可能と考えられます。
43.7%で続くのが、「アップサイクルやリサイクルが必要な食品ロス」です。これは、食品の製造や加工過程で発生する食品ロスで、別の食品などにアップサイクルすることや、飼料・肥料などにリサイクルすることで削減が可能です。これらを推進するには、企業単体だけでなく、企業間で協調する取り組みも活発化させる必要があります。
上記の分類に該当しないのが、「その他の方法による削減が求められる食品ロス」(10.0%)です。アップサイクルを行わなくてもそのまま人が食べられる食品として、余剰食品プラットフォームで販売することで削減が可能と考えられます。
図 1 【食品ロスに関するアンケート】 食品ロスの発生要因別の発生率・発生量
また、需給予測の高度化が進んでも食品ロスがなくならない要因として、32.5%が「予測できない需要変動に対応するために、生産量を減らすことができない」を挙げました(図2)。こうして発生した余剰食品も、余剰食品プラットフォームでの販売で削減できると考えられます。
②食品ロス削減に向けた取り組み
食品ロス削減に向けた取り組みのうち、「Kuradashiなどを活用した再流通」「歩留まりの改善」「生産計画の改善」「既存取引先への値引き販売」「消費期限の延長」の5つの実施率が50%を超えました(図3)(注4)。
中でも、「Kuradashiなどを活用した再流通」「歩留まりの改善」「生産計画の改善」は、実施時において、10%を超える比較的高い削減効果が得られていたことが分かりました。一方、「賞味期限の延長」は実施率が高いものの、削減効果は5.7%にとどまっています。本アンケート調査の回答者に菓子類や清涼飲料水など比較的賞味期限が長い食品の事業者が多いことも、この結果をもたらした一因になったと考えられます。
図 3 【食品ロスに関するアンケート】 食品ロス削減に向けた取り組み別の実施率・削減効果
■本実証実験について
本実証実験では、Kuradashiで販売している全商品を対象に、値下げ対象と判断された際に自動的に値下げをする仕組み(ダイナミックプライシング)を導入しました。なお、値下げ対象の判断は、商品の残り賞味期限や売れ行き、ページビュー、購買率を基にしたシステム的な判断プロセスによって行い、売り切り促進の効果を検証しました。
<検証テーマ>
これまで価格変更は手動で行うことがほとんどでしたが、過剰な値下げなどによる販売機会の損失が発生していることが懸念されるようになりました。また、価格変更ルールが経験頼りとなっており、価格変更の適正性を担保することが困難であることも問題とされています。
そこで本実証実験では、在庫回転率(売り切り期間)および粗利率について、ダイナミックプライシングの導入前と導入期間とでの比較を行うことで、売り切り促進の効率と効果を検証しました。
<実施概要>
実施場所: ソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」(https://kuradashi.jp/)
実施期間: 2022年11月1日(火)~2023年1月31日(火) 計92日間
対象商品: Kuradashiで販売している全食品・飲料品y
図 4 本実証実験の全体像
<各社役割分担>
クラダシ(本社: 東京都品川区、代表取締役社長: 関藤 竜也)
・本実証実験の運用
・ダイナミックプライシングのシステム構築
日本総研(本社: 東京都品川区、代表取締役社長: 谷崎 勝教)
・本実証実験の全体設計・推進・効果検証
<本実証実験の結果>
本実証実験期間中(11月〜1月)の在庫回転率は、その前年度(11月〜1月)に比べ25.9%向上していることが明らかになりました(図5)。従来は最適なタイミングで値下げができておらず販売機会を失っていた商品が、自動的な値下げによって販売につながったことによる影響と考えられます。
また、粗利率においても、本実証実験期間中は前年度よりも5.5%向上しています。本実証実験では、ページビューや購買率が高い商品は値下げを避け、必要に応じて値上げも行ったことで、従来は過剰な値下げをしてしまっていた商品も、適正な価格で販売できたことによる影響と考えられます。
在庫回転率、粗利率ともに向上させられれば、余剰食品プラットフォームの事業安定性・効率性が向上することになり、事業拡大(取引量、商品種類の拡大)による食品ロス削減量の増加が期待できることになります。
図 5 本実証実験の集計結果
■今後の予定
日本総研は、本実証実験の結果を踏まえ、余剰食品プラットフォームをはじめとした食品ロス削減に資するサービスの社会実装を支援する活動を推進します。
クラダシは、本実証実験の結果を踏まえ、ダイナミックプライシングを継続的に運用し、より効果的・効率的な事業運営をすることで食品ロスの一層の削減を目指します。また、価格改定に関するデータを蓄積することで、将来的にはAIを活用したダイナミックプライシングの実装を目指します。
(注1)ソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」
Kuradashiは、クラダシが提供する食品ロス削減を目指すショッピングサイトです。様々な理由により、通常の流通ルートでの販売が困難な商品を買い取り、お得な価格で販売しています。また購入金額の一部を自分が応援したい社会貢献活動団体に寄付できる仕組みとなっており、環境保護・災害支援などに取り組む様々な団体に寄付することで、SDGs17の項目を横断して支援しています。いろいろな掘り出し物が見つかる、楽しくてお得なお買い物が社会の徳に繋がる、そんなソーシャルグッドマーケットです。
参考ホームページ: https://kuradashi.jp/
(注2)令和4年度 流通・物流の効率化・付加価値創出に係る基盤構築事業(IoT技術を活用したサプライチェーンの効率化及び食品ロス削減の事例創出)
IoT技術やデータの活用によって、店舗運営やサプライチェーンを効率化させながら生産性の向上を図るとともに、新たな付加価値を創出していくことが、社会的な役割の大きい流通・物流業の持続可能な成長にとって重要となってきています。そうした中、本事業は、IoT技術やデータを活用することで、サプライチェーン全体の効率化や社会課題である食品ロス削減に資する事例を創出することを目的として行われます。
本事業を経済産業省より受託している日本総研は、本事業において食品製造業、小売業やその他協力企業各社とともに、上記背景および目的に基づき、令和4年度中に複数の実証実験を実施することを予定しています。
その一つである本実証実験は、サプライチェーンの効率化および事業系食品ロスの削減を目的に、生産・製造から流通・物流、そして販売までのプロセスを対象として実施します。
本事業の対象範囲と本実証実験の位置づけ
(注3)日本の食品ロスの状況(令和2年度)
https://www.maff.go.jp/j/press/shokuhin/recycle/220609.html
※「日本の食品ロス量が推計開始以来、最少になりました」(農林水産省プレスリリース/2022年6月9日)より
(注4)「Kuradashiなどを活用した再流通」の高い実施率は、本アンケート調査の対象がKuradashiへの出品経験のある事業者であることが主な要因と考えられます。
■株式会社クラダシについて
代表者氏名:関藤竜也
設立:2014年7月
本社所在地:〒141-0021 東京都品川区上大崎3丁目2-1 目黒センタービル 5F
URL:https://corp.kuradashi.jp/
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「Kuradashi」、「1.5次流通」、「もったいないを価値へ」は株式会社クラダシの登録商標です。「Kuradashi」ロゴ、「ソーシャルグッドマーケット」は商標登録出願中です。
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※本資料は、経済産業記者会にて配布しています。